始まったわけではない

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そういうと私の背中に手を回した。 「私の夢に、カナエが出てくる。だからきっと、私が夢に出てくるはず。」 すこし緩んだ顔を見ただけで私の涙は溢れてきた。 少しずつ滲んでいくジュインの顔が近くに寄ってきた様な錯覚に襲われてきた私はベッドに張り付いた背中に無理矢理手を回して体を強く押し付けた。 ドクン・・・、ドクン・・・と聞こえるジュインの鼓動は私をなだめるかのようにゆっくりだ。 「ずっと教えて無かったね。私の気持ち。」 顔が見えない様にジュインの胸に埋めた。 そうしたらジュインの顔が見えなくなる。 当たり前だ。 だから今、笑っているのか泣いているのか、無表情なのか。 私には分からなかった。 「私は・・・」 でもきっと目をつぶって、聖母のような微笑みをしている。 「カナエが」 この世で一番美しい顔で私を見ているように思えた。 「何よりも大切だよ。」 今言うタイミングだったのか、どうして今だったのか。 私にはさっぱり分からなかったけどこの時の私はきっと喜んでいたんだろう。
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