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蚊の鳴く様な声は周りの騒音にかき消されて、隣のしう姉ちゃんにさえも届かない。 聞き返す素振りを見せたしう姉ちゃんに首を振って、私はジンジャーエールのグラスを手に取る。 手持無沙汰の私は入り乱れて踊る人の熱気に当てられながら、二度と来ないと思われるクラブをぐるりと見渡す。 そして、メインフロアの中に一際目立つ動きをする人が目の端に入り何の気なしにその人物に視線を向けた。 最初はなんてスムーズに踊る人なんだろうという純粋な驚きだった。他の人とは比べ物にならないくらいダンスが上手い。 素人の私が見ても分かる。リズムの取り方も、動きのしなやかさもキレも際立っている。 彼は輝いていた。
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