一章

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 何も起こらない。ニズは迫ってきている。  だが、指輪を填めても何も起こらない。 「何――」  ―何でだよ!― そう叫ぼうとした瞬間、あるイメージと言葉が頭に流れた。  そのイメージとは―― 「っ、やるしかねぇか……堕ちろ!」  そのイメージとは、力のイメージ。不意に流れ込んできたそれを、無我夢中で再現する。  叫ぶと同時に闇色の結界がニズとシークの間に現れる。 「なっ」  ニズは即座にその場を離れ、どんなことにでも対処できるように身構える。  しかし、いつまで経っても何かが起こる様子はない。  それにニズは訝しげにシークを見る。 「これは……どういうことだい?」 「……何がだよ」  シークはニズを睨みながら、ゆっくりと後退る。 「……何でもないさ。じゃあ、子供の遊びは終わりにするよ」  ニズは短剣を抜きながら睨み付ける。同時に放たれた殺気にシークは怯む。  だが、退けない。  止めなければならない。  ジオが出来なかったことをしなければならない。  だから、戦う。 「堕ちろ!」  今度は形を想像した状態で結界を造り出す。  その形は――槍。  何もない場所から瞬間的に現れるその攻撃は、武芸の達人でも避けることはできない。  そのようなスピードで繰り出される攻撃を、油断していたニズが避けられるわけがない。
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