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純白のコーヒーカップに注がれたコーヒーがゆらり、と波紋を形作る。
その度に、吐き出された湯気は蛇のように右へ左へ曲がりくねる。
それが、先程から絶えず繰り返されている。ちなみに、私は一切コーヒーカップに触れていない。
では、一体何がコーヒーの水面を揺らしているのか。
「……あ、アナタがアタシの依頼を受けてくれるっていう娘ね?」
「……はい」
酷く脅えた様子で、テーブルの向かいに座っている女の人が口火を切った。
声は上擦り、手に取ったコーヒーカップと受け皿は、手の震えで先程からずっとカチャカチャとけたたましい音を奏でている。
──手の震えがテーブルにも伝わり、私のコーヒーを一緒に揺らしている、という事だ。
「えー、えっと、アタシは【オデット】って言う者よ。よ、よろしく」
「……【アリッサ】です」
差し出された手を握ったら、ほんの少しだけ震えが治まったようだ。それでも、手を通じて小刻みに震えが伝わってくるのだけれど。
そして、中々離してくれない。
「……あの」
「あ、あぁ、依頼の話ね。早いとこ伝えなきゃよね」
……いや、それもだけどそうじゃなくて。
そんな無言の抗議を余所に、オデットと名乗った依頼人は私の手を握ったまま、今回の依頼について早口で喋り始めた。
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