1.救いの手を彼女に

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俺、篠主野 志乃は放心状態に陥っている。 放心状態って言うのは、「心配事を心から払う」「安心する」って言う意味もあるのだが、この放心はもちろんそんなものではない。 普段ほとんどの人が、「魂が抜けたようにぼんやりすること」という解釈で使っているだろう、その意味の放心である。 とにかく、今の俺はそんな放心状態で道場の玄関を見つめていた。 齢九十になる師範兼祖父が兄弟子と共に山篭りに行くと言い出したのが二十分前。 言っているのは冗談くさいのに、眼がマジというギャップに気圧されている間に祖父が荷造りを終わらせたのが十分前。 自分が出て行ってる間に盆栽の世話をよろしくと、ステップで出て行ったのが五分前。 そして、今に至る。 ・・・いやいやいやいや。 意味が分からん。 なんで山篭り?なんで家族の相談無しに?弟子である俺を置いて? 解せぬ。 それもそのはず。脈絡もクソも存在しない為、そもそもこれは理解できる事ではないのだ。 ・・・あぁ、いいぜ、分かった。 こうなったら規律正しく居座っている盆栽達をアイドルユニットにも負けないぐらいに華やかに育ててやるぜ。 理解できないなら、納得してしまおう。 いよっし、これは中々のベストアンサーじゃないか。俺。 「って納得できるかァァァァァァァッ!!」 放心状態から回復した俺の咆哮は、俺しかいない道場に虚しく響いた。
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