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私は壱夜さんとニ手に別れて屯所内を必死に走っている。
だが、土方さんの目的はあの発句集を他人に見せない事だ。
従って今追いかけられているのは壱夜さん。
「いちやぁぁ!!其を渡せば何もしねぇから渡しやがれ!!」
土方の怒号が聞こえてくる。 その声からどんなに必死なのか伝わってくるので、思わず私は笑ってしまう。
「そんな顔で言われても説得力がない。
それに、こんな面白そうな事、簡単に止められるか。」
飄々と逃げ回る壱夜さんは、土方さんの事があまり好きではないらしい。
だから他の人には使う敬語も土方さんの前では出ないのだ。
土方さんを弄るとき、壱夜さんがいると更に面白くなるんですよねぇ。
「ふふふ」
笑いながら走っていると、反対側から壱夜さんが走ってきた。
その後ろに土方さんがいると思いきや、全くその様子はない。
私の疑問に気付いたのか、壱夜さんは口を開いた。
「鬼には文字通り退治されて頂かないと」
そう言って含み笑いを浮かべた。
何をやったのか想像出来た私は思わず吹き出す。
「も、桃太郎じゃないんですから…ぷぷっ!」
「だって、丁度良いところに猿と犬と雉が居たんですもん。だから、任せてきました」
猿と犬と雉と言うのは恐らく平助と新八さんと佐之さんの事だろう。
何らかの形であの三馬鹿に鬼の事を任せて私と合流したようだ。
主人公である桃太郎が居ないと退治は出来ないような気もするが、気にしないでおこう。
どうにか笑いをおさめた私は壱夜さんに提案する。
「落ち着いた事ですし、甘味でも食べに行きましょうか」
「あ、いいですね」
返事を聞いてから、私達は屯所から出た。
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