326人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
「あ、お団子もう三つ下さい」
「まだ食べるんですか…?」
「そうですよ!甘味は私の主食ですから」
壱夜さんの呆れた様な顔を見ながら私はお団子を口に入れる。
やっぱり美味しい。
土方さんは甘ったるい物はあんまり好きじゃないから誘えないんですよね。
近藤さんは誘ったら来てくれるでしょうけど、仕事の邪魔はしたくありませんし。
壱夜さんは余り食べませんが、甘い物は好きな様で、誘ったらかなりの割合でついてきてくれる。
「それにしても、あの土方があんなに必死になって奪いかえそうとするなんて、どんな恥ずかしいものが書いてあるんです?それ」
それとは発句集の事だ。
壱夜さんはぱらぱらと捲り始めた。
だが、直ぐに怪訝な顔をする。
「沖田さん、これ…」
「ああ、気にしないで下さい」
私は笑って発句集を壱夜さんから受け取る。
それでも壱夜さんは怪訝な顔をしていたが、納得したように頷いた。
「そういえば壱夜さん、ずっと貴方に聞きたい事がありました」
「何ですか?」
「記憶が無い、ってどんな感じなんですか?」
言ってしまってから私は後悔する。
壱夜さんの目が少し曇った気がしたからだ。
だけど、壱夜さんは答えてくれた。
「一言で言えば、孤独、ですね」
「孤独?」
「はい。周りには誰も私を知ってる人は居ない。
そんな状況で自分だけが頼りなのに、その自分も得体の知れないものです。
だから、信じられる物がない。周りから取り残された孤独、です。
おまけに私は間者として疑わしいですからね」
そう自虐的に言う壱夜さんがとても痛々しく見えた。
そんな私の様子に気付いたのか、壱夜さんは誤魔化すように微かに笑った。
彼女が笑うのは極稀な事だ。
「だけど、今は沖田さんと土方を弄るっていう楽しみが有りますし、気が紛れるってことではありませんけど、何とかやってますよ」
そう言って壱夜さんはお団子を口に含んで「美味しい」と呟いた。
もう先程の笑みは消えていて、感情の読み取れないいつもの無表情に戻っていたが、その言葉に壱夜さんの本音が紛れていた様な気がして、思わず笑みが漏れた。
最初のコメントを投稿しよう!