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「私何か可笑しなこと言いました?」
壱夜さんは不思議そうに首を傾げた。
「いえ、何でもありませんよ。ただ、少し嬉しいだけです」
まるで自分の存在が彼女の孤独を軽くしていると感謝されている様で、悪い気はしない。
ふふ、と笑うとやっぱり彼女は不思議そうにしていた。
屯所に帰ると、やはり鬼が待っていた。
門で仁王立ちをして待ち受けている。
「てめぇら、解ってるんだろうな」
「何がですか?私達はただ甘味を食べに言っていただけなんですけど」
私がそう言うと、土方さんは更に眉間に皺を寄せた。
その表情は些か疲れているようで、あの三馬鹿にどれだけ手を焼いたのかが伺える。
「さっさと返せ」
有無を言わさないような鬼の形相で土方さんは手を出す。
「そんなに怒らないで下さいよ。もう、しょうがないなぁ」
そう言って懐にしまっていた発句集を渡して、土方さんの横を通り私達は屯所に入った。
「何だ?嫌に素直だな」
「失礼ですねぇ。私はいつも素直ですよ。ね、壱夜さん。」
「そうですね」
そう言って二人で含みのある笑みを見せた。
土方さんは怪訝な顔をしていたが、納得したように部屋に戻って行った。
その背中を見送ると、壱夜さんが口を開く。
「でも、なんで土方はあんなものに必死になってたんでしょうか?
中身見ても何も書いてなかったのに」
「それはですねぇ」
そう言って私は懐にしまっていたもう一つの冊子を出した。
「あれは身代りで、此方が本物だからです♪」
その時、屯所中に土方さんの怒号が響いた。
「そぉぉぉぉぉぉじぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「あ、これはやばい。」
「やばいってものじゃないですよ」
呆れ顔の壱夜さんの手を握って私は走りだした。
「ち、ちょっと沖田さん!」
「こうなったら共犯です!一緒に逃げて貰いますよ♪」
「か、勘弁して下さい!」
こうして本日二回目の鬼ごっこが始まった。
壱夜さん、知ってました?
土方さんを弄るのも好きですが貴方を弄るのも楽しいんですよ。
私は笑いながら壱夜さんの手を引いて屯所中を走り回った。
END
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