鬼、土方歳三の受難

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それは文久三年、まだまだ暑さが残る八月末の話。 「暑いですねぇ」 「暑いな」 「暑っちい」 「暑いったらありゃしねぇ」 着流しの袖を肩まで捲り上げて沖田総司、永倉新八、藤堂平助、原田左之助は団扇を扇いで涼んでいた。 ………土方歳三の部屋で。 だが、彼は今室内には居ない。用事があるとか無いとかで屯所を出ている。 では、何故ここにこの四人が居るのかと言うと、この日の朝に遡る――――― 「お早うございます壱夜さん!…ってあれ?」 沖田が朝稽古を終え、朝食の支度をしているであろう壱夜のいる勝手所に顔を出すと当の彼女は居らず、代わりに永倉、藤堂、原田が居た。 「おう、総司!見ろよこれ、今朝の飯も美味いぜ!」 永倉がにかっと笑いながら言った。 「『美味そう』、ではなくて『美味い』と言うことは、貴方達、もしかして摘まみ食いしたんですか?」 「あぁ、総司も食べるか?」 「結構です。私は食卓に出る量で充分足りますし、それにそんな事で土方さんの怒りを受けたくないですしね」 沖田がそう言うと、三人は焦る。 藤堂が慌てて沖田に言った。 「だ、黙っててくれよ?」 「さぁ、どうしましょうかねぇ?」 「頼むよ!!…どら焼やるから!」 その言葉にぴくりと反応した沖田は、目を輝かせた。 「しょうがないですねぇ。 今回だけですよ?」 にっこりと笑いながら言う沖田の腕の中に、何かが在るのを見つけた原田は、それを尋ねた。 「それよりも総司。持っているそれは何だ?」 「あ、これですか?」 沖田の腕の中で何やらもぞもぞと動くそれは、ひょっこりと顔を出した。 永倉と藤堂は、それを見て笑みを溢す。 「猫だ!」
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