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「あれ~? 寝ちゃったのかなぁ~? どうしよう……」
ナオが携帯電話を取り出し、かけようとしたその時、ゆっくりドアが開いた。
ガチャッ……
「あ、矢城くん。今、電話しようと思ってたとこだった。ごめん。寝ちゃってたよね……」
「ナオさん! す、すみません。眠ってしまいました」
「謝る事ないわよ。とりあえずさ、このオジサンを中に入れてもらえるかな?」
「あ! は、はい!」
ふたりは飯野を抱え、ソファーに座らせ、水を飲ませる。
飯野は、虚ろな目を半開きにすると、戯言を呟いた。
「きょうこ~、僕はきょう、ここで寝ます! なんつって~」
どうやら、‘きょうこ’と‘今日ここで’をかけてるらしい。
こんな時でも、オヤジギャグ健在。
しかも、ナオを奥さんと勘違いしている。
ナオはひと芝居してあげた。
「ハイハイ、あなた~、ベッドに行きましょうね~」と声を高くして言いながら、矢城に飯野のシャツとズボンを脱がせるように、ジェスチャーで伝えた。
すると、飯野は矢城に抱きつき「今日は無理だよ~。明日しようね~」と言ったかと思うと、ベッドに倒れたまま寝てしまった。
ナオと矢城は顔を見合せ、クスクス笑った。
「飯野さん、完全に自分家と勘違いしてるね。起きた時が楽しみだわ」ナオは更に笑った。
ナオは、飯野のいびきを背に受け、改めてお礼とお詫びを伝えた。
「矢城くん、あなたが気転を利かせてくれたお蔭で、本当に助かったよ~。ありがとう。でも、ごめんなさい。迷惑かけてしまって……」
「め、迷惑だなんて……。それに、ナオさんが謝るなんておかしいですよ」
「あ、そうだよね~。悪いのは、あのいびきのオッサンだもんね!」
「でも……。嬉しかったです……。ナオさんが俺を頼ってくれて……」
「あたしだって、矢城くんが言ってくれなかったら、今頃路上で寝てたかも知れないよ」と言って笑った。
「俺……、飯野さんに先にタクシー乗って帰っていいって言われましたけど、実は気になって仕方なかったんです。飯野さんは酔っぱらってましたけど、もしかして、……その……、ナオさんとどこかに入り込んでしまうんじゃないかって……」
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