94人が本棚に入れています
本棚に追加
/89ページ
―3年前―
「美坂さ~、うちの会社で働かないか?」
高校の同級生だった雅樹が誘ってきたのは、ナオがレンタルショップでバイトしていた時の事だった。
ナオは短大を卒業後、定職に就かず、バイトを転々としていた。
これと言ってしたい事もなかったし、取り敢えずお小遣いだけは確保して置きたかった。
近場でバイトを始めると、同級生やら近所の人達に声をかけられる。
それがなんともうっとおしくて、少し離れた地域のレンタルショップで働いていた。
「あんた、そろそろ就活でもしなさいよ! それとも結婚でも考えてるの?」
母は決まり文句のように言ってくる。
「いいじゃん! これでも一応働いてんだからさ~。そのうちなんとかなるって」
「全く、何の為に短大行かせたんだかわかんないわよ!」
「またその話に戻るわけ? 今はちゃんと働いてるでしょ!」
「バイトごときで偉そうな事言ってんじゃないわよ!」
「ちょっと! バイトをばかにしないでよね! これでも責任持ってやってんのよ! バイトの方が大変だっつうの!」
父親は出張が多く、ほとんど家に帰らない為、母はいつもナオに八つ当たりしていた。
その日は、先輩からシフトを代わって欲しいと言われたので、夜間勤務となっていた。
ナオがレジに来た男性に対応しようとした時だった。
「あれ? 美坂じゃない?」
「えっ!」
ナオは、マジマジと男性の顔を見る。
「…………あ、雅樹くん?」
「やっぱり~。ネーム見て、もしかしたらって思ったんだけど。いつからここで働いてたの?」
「ん~、2週間くらい前かな?」
「そっか。どうりで初めて会うわけだ」
「ふ~ん、よく来るんだ、ここ」
と言って、カウンターに置かれたアダルトDVDをチラ見した。
「あ……、ま、まあ、実は……常連……だったりする……」
雅樹は照れ笑いをした。
「毎度有り難うございます!」
ナオはひときわ大きな声を出した。
「おい! 声デカイよ」
「大事なお客様ですからねー」
「美坂って、なんかちょっと雰囲気変わったよな?」
「そりゃあ、ちょっとは大人になったからねー。雅樹くんだって、引き締まったんじゃない?」
「まぁな、結構仕事がハードだからさ」
最初のコメントを投稿しよう!