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「なぁ、陽子。愛するのと愛されるのってどっちが幸せなんだと思う?」
帰り道、音弥の突然すぎる質問に陽子は危うく吹き出しそうになった。
(この状況でこの質問はヤバい。)
雲1つない夕陽はなんとも表現できないグラデーションで、周りに人はいない。オレンジ色の空のした、こんな隠れイケメンと二人きり…。
「い、いきなり何言い出すのよ。音弥のくせに…。」
「クラスでそういう話になったから。実際どっちだろう。」
なんだ。私を思って言った訳じゃないのか…。
期待を裏切られ、陽子は妙にがっかりした気分になる。
「私は愛する方だと思う。」
「なんで?」
「なんで。うーん。人を愛すると自分も愛せる気がするんだよね。それに、愛した人のためにきれいになったりするのも楽しいし。」
「知ったような言い方すんのな。お前、誰かを愛したことでもあんの?」
「あるわよ。失礼ね。あ、あと。もう1個。人を愛すると毎日が変わる。全く違く見える。」
ふーん。音弥はいまいちピンと来ない顔をしている。
「じゃあ、俺は人を愛したことがないのかも。俺は16年間でそんな体験したことない。毎日が平凡に過ぎてる。」
「平凡なのは悪いことじゃないよ。それを望んでも手に入らない人もいる訳だし。」
少し間を置いて、陽子の顔がみるみる曇っていく。
「ちょっとまって、じゃあ小学校の時話題になった詩織ちゃんと美香ちゃんは?中学のときの葵ちゃんとか中原さんとかは?」
陽子は思い付く名前をあげる。
多分思い出せないだけでもっといるはずだ。
「ちょっと待て。俺、分かるの中原だけなんだけど。俺、今まで完全フリーだし。彼女なんかいたことねぇよ。」
音弥は慌てる。じゃあ、私の気心は一体何だったのか。
「大体彼女なんかいたらお前と登下校なんかしないだろ。」
確かに…。陽子は安心したような自分も眼中にないのを悔やむような複雑な気分になった。
じゃあ、初彼を狙える可能性もあると…。
「1人でにやけてどうした?」
勝手に口角が上がっていたらしい。音弥に注意されて顔が真っ赤になる。
「なんでもないよ!!女の子がそういうことになってたらほっとけ、バカ!!」
陽子が振り回す鞄をよけて今日も帰宅する。気づくと夕焼けは姿を消して代わりに一番星が光っていた。
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