1-2.幸せの壊れる音

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「なぁ音弥。この問題どうやるんだ?」 藍川高校にも定期テストが近づいてきた。まだ1年とはいえ大学受験に向けて気が抜けない。 いつもはふざけている幸太郎も参考書と問題集を広げていた。 「あぁ。これは2番の公式使って出したこの式をXに代入したらでるだろ。」 「さっすが音弥。頭いい。」 両親が理系な為か、音弥は理系が得意だった。 清弥と美桜は生物学の実験をしている研究所の教授と助教授という関係だったらしい。 「てか、それこの間授業でやってただろ。」 「酒井の教え方が悪いんだよ。」 「あのなぁ。」 音弥があきれてため息をつく。 酒井は今年赴任してきた数学教師だ。若いからか生徒には好かれているし、バカにもされている。 (俺は酒井の教え方、上手いと思うけどな…。) 音弥は何事も丁寧に教えてくれる酒井が好きだった。 「ところで幸太郎。お前、本当に忘れてないんだな。」 一種の睨みを聞かして音弥は幸太郎に尋ねた。しらばっくれられては元も子もない 「分かってるって。この前の宿題のお礼といっしょに今度食べ放題奢るんだろ?」 「ならよろしい。」 「で、それいつ行くんだ?テスト前なら明後日か?」 「明後日は無理だ。デートの先約がはいってる。」 「はぁ?お前、彼女できたのか」 幸太郎の大きな声のせいでクラス中の目線が音弥に向く。 「嘘だといってくれ、音弥。お前だけは彼女作らないと、作ったとしても男ほったらかして彼女を優先するようなやつだと信じていたのに。」 「バカ、彼女じゃねぇ。うちの母親とだよ。明後日は母親の誕生日なんだ。陽子がサプライズパーティーしたいから連れ出して欲しいんだとよ。」 音弥の弁解に好奇と落胆の視線がいつも通りにかわった。やはり何歳になっても他人の恋愛は格好の遊び場らしい。 「あぁ、家族なら仕方ねぇな。じゃあテスト最終日にするか。」 「そうだな。」 結局、食べ放題は来週の金曜日になった。
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