1-2.幸せの壊れる音

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「お連れしました。」 青山が重厚なドアをノックする。音弥が連れられて来た場所は校長室だった。 中学のとき、面接の練習でしか来たことない校長室に音弥は身構える。なんで入学して1年たたないうちに校長室なんかに呼び出されなければならないのか。 「先生、俺なんかやらかしましたか?」 「だからそういうんじゃないから安心しろ。お前にお客さんが来てるんだよ。」 「どうぞ。」 ドアの向こうから声がする。 中にはいると恰幅のいい老人…つまりは校長と、ドラマに出てくる社長秘書のようなインテリ風の女性がいた。 「まぁ、座りたまえ。」 校長に進められるままに座る。 女性はにっこりと音弥に笑いかけた。 「こちらは鞍馬田学園の月宮真央さん。実はな涼代くん。鞍馬田学園からスカウトが来たんだよ。」 あまりに突然のことに音弥はなにも言えない。 私立鞍馬田学園高校。 高校、大学、大学院と続く鞍馬田は世界に名高い名門中の名門だ。そんなところからスカウトが来るような心当たりなんて全くない。 「実は今、鞍馬田学園ではこれからの情報社会や宇宙技術開発に向けて優秀な人材を集めてるの。涼代様の理系の才能は、将来必ず世界に羽ばたくものを作り上げると思い提案させて頂きました。」 話の規模の大きさに頭がくらくらする。 「そんな突然すぎます。鞍馬田はここから通えるような場所じゃないし教科書とか制服とかいろいろ問題もあるじゃないですか。」 「それなら問題はございません。スカウトさせて頂くのですからもちろん学費は免除させて頂きますし、涼代様が生活なさる部屋も道具も既に手配済みです。それに何よりご両親様もご了承済みです」 清弥も美桜もそんなそぶりは全く見せてなかった。今日も普通に音弥を送り出した。 「明日の正午にお迎えに参りますので、自宅で待機なさっていてください。」 それだけ言うと月宮は帰っていった。 「今日はもう帰って明日の準備をしなさい。こんな小さな高校から鞍馬田に通う生徒が出るなんて、君は、藍川の誇りなんだ。」 校長は青山に車で送るよう指示した。音弥はあまりに突然すぎてもうなにも理解出来なかった。
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