1-2.幸せの壊れる音

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美桜のカレーは本格的だ。 市販のルーを使わず20種類以上のスパイスを混ぜ合わせる。 「このカレーで父さんのハートをゲットしたのよ。」 小さいときにそんなことを聞いたような気がした。 「母さん…。」 「なあに?」 キッチンから明るい返事が聞こえてきた。 「…何歳なんだ?」 沈黙が続く。 「音弥。女性にはね、聞いてはいけないことが3つあるの。」 怒っているのか冗談なのかは分からないが楽しいテンションではない。 「バスト、体重、年齢よ。おハイソな学校に行くんだから駄目よ、女の子にそんなこと言っちゃ。」 「同い年か1、2こ上の女に年聞く必要あるか?そしてバストや体重を聞く機会があるような学校は多分おハイソとは言わない。」 「それもそうね。でもいきなりどうして?」 「陽子といい、クラスメートといい、みんな母さんのことを“若い”だの“キレイ”だの言うからさ。幸太郎に関しては“20代に見える”とか言うし。」 「あら、みんな若いのにお世辞が上手いのね。」 美桜の顔がパッと明るくなった。 「で、実際は?」 「Forever seventeen(永遠の17歳)って言いたいけどそんな歳でもないし。いいわ。ヒントあげる。私は巳年よ。」 音弥は亥年だ。 まさか高校生の息子がいて30代なんてことはないだろう。 「スパイスの倍か。」 「思ったより早かったわね。正解よ。もうそんな年になったのね」 確かに世間の40と比べたら大分若いかもしれないな…。 てか、24で産んだ時点でギャルママだったのか。 「音弥。あなたは自分に正直に生きなさい。あなたはきっと正しい道に行けるのだから。」 「…あぁ。」 仲がいいとは言われていた。自分でもそのつもりだった。だが、初めて美桜と正面から向き合ったと思った。 音弥は美桜の思いにただ頷くしか出来なかった。
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