1-1.目に見えない幸せ

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「音弥。いい加減起きなさい!! 遅刻するわよ!!」 今日も母・美桜の怒鳴り声がする。 朝日を遮るカーテンを開けると、今日もいい天気だった。 うーんと1つ伸びをして、生まれつきくるくるの頭をくしゃくしゃと掻き、涼代音弥は美桜と父の清弥待つ1階に降りていった。 「おはよう。」 「早くしなさい。せっかくの朝ご飯が冷めるでしょう。」 テーブルに目をやると冷める様子のない立派な朝ご飯と、新聞を読む清弥の姿があった。 「おはよう。」 「おはよう。さぁ、音弥も来たし食べるか、母さん。」 清弥は新聞をたたみ、時計がわりに朝の報道番組を点ける。 『日本各地で幼い子供たちが行方不明になった満月事件の時効から1年が経ち、警察関係者は改めて被害者の家族に謝罪の言葉を述べました。』 「満月事件?」 バターを塗ったトーストを頬張りながら音弥は尋ねる。満月事件なんて聞いたこともない。 「あぁ、ちょうど音弥が生まれる直前に0歳から3歳の子供たちが突然失踪したんだ。それが去年、時効を迎えたのさ。」 「この事件、犯人はおろか手懸かりも見つからなくて警察がかなり非難されたのよ。」 「へぇ…。」 世の中には不思議で物騒な事件があるもんだと音弥は思う。 でも、身代金の要求もなく、ただ子供たちを誘拐した犯人は一体何がしたかったのだろう? 『なお、失踪した子供たちの捜索は今も続いている模様です。』 キャスターが満月事件を報道し終えると途端に画面の雰囲気が明るくなり、人気歌手の結婚やら出産やらの報道が始まった。 「失踪者も見つかってないの?」 「そうなんだ。神隠しのように犯人も子供たちも消えた。ハーメルンの笛吹のように…。」 ハーメルンの笛吹。 ネズミ駆除をした報酬を渋られた笛吹の若者が村中の子供たちを連れ去ってしまう。 父さんにしてはいい比喩使うな… ピンポーン。ピンポーン。 暗い雰囲気を打ち破るようにチャイムが鳴った。
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