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カメラに近づくと、ポニーテールの少女が待っていた。
「音弥、陽子ちゃんよ。早くしなさい。」
「げっ。マジかよ。」
音弥は目玉焼きをコーンスープで流し込み、洗面台に向かった。
「おはよう、おばさん。」
玄関に行くと少女の明るい返事が聞こえる。朝の連続ドラマから飛びだしてきたような少女だ。
「おはよう、陽子ちゃん。毎朝ごめんなさいね。」
「小学校からの日課みたいなものですから気にしないでください。それに、音弥のお陰で、私皆勤なんです。」
華山陽子。涼代家の隣に住む音弥の同級生だ。小学校の頃からの腐れ縁で多分陽子が、世に言う幼馴染みという存在なんだろうと音弥は思っている。
「相変わらずバタバタですね。」
陽子は笑いながら呟いた。
「本当に。1回くらいいつまでも鏡なんか見てないで早く学校に行きなさいって言ってみたいわ。」
「悪かったな、洒落っ気のない息子で。」
ふてくされながら音弥は登校の準備を終え、玄関にやって来た。
「開き直るんじゃないのよこの子は。もう陽子ちゃんの元にお婿にいくしかないわね。」
はぁ、とため息を吐いて美桜は陽子と音弥を見比べた。
「な、なに言ってるんですか、おばさん。」
陽子の顔がうっすらと赤く染まった。
「ホントだよ。なんでこんな小姑みたいな女のとこに婿に行かなきゃなんないんだ。ゴメンだね。」
音弥の幼馴染みゆえの辛辣な言葉に赤く染まった頬はたちまち元に戻った。
「ハイハイ。もうさっさと学校に行っちゃいなさい。陽子ちゃんの皆勤の邪魔しないの。」
美桜は放り出すように2人を見送る。
「私もそろそろ行くとしよう。」
気がつくと清弥が立っている。
「行ってらっしゃい。」
音弥と陽子を送り出し、清弥を見送る。それが美桜の毎朝だった。
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