1-1.目に見えない幸せ

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藍川高校は普通の県立高校だ。 中学のとき少し勉強が出来て地元に通いたい人はだいたい藍川高校にいる。だから、小学校の同級生がいるとかはザラだ。 もちろん、都内に出たい人もいるだろうし、県内も広いからけっこう遠くから来てる人もいる。 そしてもちろん、通いたくても通えない人もいる。 「じゃあまた帰りにね。」 今年、音弥と陽子は初めてクラスが別れた。9年間も同じクラスだったから高校もなんだかんだて同じクラスなんだろうと思っていた分、お互いになんだか物足りなさを感じている。 とはいえ隣のクラスなんだから、腐れ縁とは恐ろしいものである。 「了解。またな。」 軽く別れを告げ音弥は3組へ、陽子は4組へ向かう。 「おっはよー、音弥。お前昨日のお笑い見たか?」 「あぁ、見た見た。お前が好きな奴出てたな。」 「そうなんだよ。たまんねーよな、あの突っ込んだあとのドヤ!!」 友人と何気ない会話をする。 それはもう音弥たちの日課になっていた。 すると、離れたところから幸太郎がこちらにやってきた。 「音弥、お前リーディングの宿題やったか?」 「やった。」 音弥はひらりとプリントを幸太郎に差し出す。 「さすがは音弥!!俺のためにありがとう。じゃあ、遠慮なく。」 幸太郎がプリントを拝借しようとした瞬間、音弥はそれをとりあげた。 「ふざけるな。誰がお前のためにこんな面倒なことするか。」 「なぁ、頼むよ。今日当たるんだ。頼む、一生のお願い。」 「お前それ昨日も聞いたぞ。一生の願いは1回しか使えないから一生の願いなんだろうが。」 「そりゃねぇよ、音弥。小学校からの仲じゃないか。」 「知らないね。大人しく当てられろ。」 幸太郎とのやりとりももはや日常茶飯事だ。面倒だが、音弥はそれが嫌いじゃない。 「明日、学食奢れよ。」 だから、音弥は幸太郎に宿題をみせるのだ。
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