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「…や。…とや。」
遠いところで誰かが読んでいる。
「音弥!!」
後頭部に軽い衝撃を感じて音弥はようやく自分が寝ていたと知る。起こしに来たのは陽子だった。
「あんたご飯食べないつもり?」
陽子が弁当箱を差し出す。
「俺の弁当…。なんで陽子が持ってんの?」
「おばさんが届けに来てたのを見つけたの。」
そういえば弁当を鞄にしまった記憶がないな…。
「ありがとう。」
素っ気なく音弥は弁当を受け取った。まだ目が寝起きのままだ。
陽子は教室をあとにする。
「お前らホントに夫婦だよな。」
音弥を昼食に誘おうとした周りがしみじみと言う。
「だから夫婦じゃねえって。」
「仮に夫婦じゃなくて、音弥は華山陽子のことをどう思ってんだ?なんとも思ってないとは言わねぇだろ?」
音弥は考え込む。小さいときから隣にいて当たり前の陽子は異性や恋愛といった概念を越えた存在である。
「もう家族みたいなもんなんだよな…。俺、幼馴染み間の恋愛って絶対成り立たないと思うんだよね。だって姉貴に恋愛感情って抱かないだろ?」
「お前、華山陽子のことを姉貴にみたいに思ってたのか?」
幸太郎がビックリしたように尋ねる。
「俺、どっちかっていったら弟体質だろ。」
そんなことを言うが、幸太郎たちは音弥の弟体質を見たことがなかった。一人っ子の音弥は周りより大人びていてむしろ兄貴体質だと思っていたからだ。
「分かんないもんだな。でもなぁ音弥。人間、愛するより愛された方が幸せだぞ。」
「幸太郎はドラマに影響されすぎだ。昨日おんなじことを言ってるやつ見たぞ。」
「あ、バレた?」
でも、愛された方が幸せというのはなんとなく分かる気がした。
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