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『死神』という単語を夢斗は不意に思い出した。
そして同時に腑に落ちる。それほどまでに目の前にいるこの男はその単語にピッタリと合っているのだ。
そう認識した途端、腹の底から冷えるような恐怖が夢斗に襲い掛かる。
死神なんているはずがない。そう頭で考えるが目の前の光景が、本能がこの男がそうなのだと訴える。
夢斗はいつしか恐怖に支配されていた。
自分がそうなるのを待っていたのだろうか、男がおもむろに一歩を踏み出す。
カツリ、という靴音がアスファルトに響く。
ビクッと夢斗は肩を震わせた。だが、だからと言って男が歩みを止める気配はない。渇いた足音が断続的に辺りにこだまする。
カツリ──
カツリ──
カツリ──
カツリ──
カツリ────
男が一歩を進める度、夢斗の中で恐怖が段々と育っていくのが分かる。そして恐怖の種は今や満開に咲き誇り、夢斗の頭の中を溢れんばかりに埋め尽くしていた。
「──ろ」
夢斗の喉から拒絶の言葉が漏れる。しかし、擦れた声は男に届かない。
「──め、ろッ」
血を吐くような想いで再び拒絶の言葉を吐き出す。
すると今度は届いたのか、男はぴたりと脚を止めた。ほんの夢斗の目の前で。
しゃがめばもう手が届くような距離で、夢斗は男が自分を見下ろしているのを視線で感じていた。冷たい汗が背筋を流れる。
男は何かを考えていたようだが、ふと目線を上げると最後の一歩を踏み出そ
「やめろぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
そこでムトは目を覚ました。
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