世界を歩く箱

3/4
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 新たな持ち主は、戦乱のなか逃げ惑う女だった。  女は子を抱え、戦火の中をただ逃げることしかできなかった。  箱は瓦礫の下、ほんの少しの角を見せて佇んでいる。  女は中に食べ物は入っていないかと、箱を瓦礫の中から引きずり出し、そっと開けてみた。  しかし箱は空っぽ、塵一つ入っていない。  女は小さく、虚しい哂いをこぼした。  人は絶望したときも笑うものなのだなと、箱は思った。  暫く女は何もない箱を見つめていた、地面に座り込み、我が子も地面に寝かせた状態で。  どうせ周りの建物は倒壊している、地べただろうが布の上だろうが別段変わりはないのだ。  やがて、女ははっと顔を上げ、辺りの音に耳を澄ませる様子を見せる。  そして、じっと箱を見つめた。  さあ、女よ、お前は今何を入れる。  女は暫くの沈黙の後、女の唯一の心残り、まだ歩くこともできない我が子を箱に入れた。  静かに蓋を閉めた瞬間、女は銃弾の元命を落とした。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!