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新たな持ち主は、戦乱のなか逃げ惑う女だった。
女は子を抱え、戦火の中をただ逃げることしかできなかった。
箱は瓦礫の下、ほんの少しの角を見せて佇んでいる。
女は中に食べ物は入っていないかと、箱を瓦礫の中から引きずり出し、そっと開けてみた。
しかし箱は空っぽ、塵一つ入っていない。
女は小さく、虚しい哂いをこぼした。
人は絶望したときも笑うものなのだなと、箱は思った。
暫く女は何もない箱を見つめていた、地面に座り込み、我が子も地面に寝かせた状態で。
どうせ周りの建物は倒壊している、地べただろうが布の上だろうが別段変わりはないのだ。
やがて、女ははっと顔を上げ、辺りの音に耳を澄ませる様子を見せる。
そして、じっと箱を見つめた。
さあ、女よ、お前は今何を入れる。
女は暫くの沈黙の後、女の唯一の心残り、まだ歩くこともできない我が子を箱に入れた。
静かに蓋を閉めた瞬間、女は銃弾の元命を落とした。
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