幻想少女恋愛譚

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 喫煙ルームから出、出口に向かう途中で医師に呼び止められた。  正直今はさっさと帰りたい。  むしろ、帰った方が良かった。  オレは、聞きたくない結果を聞くことになった。 「恵美ちゃんのことですが」 「…何かわかったんスか」 「確かに胸は刺しましたが心臓を外に出した形跡はありませんでしたよ」  それくらい、状況報告で聞いている。 「心臓の傷はですね…やっぱりかじり取られてます。ナイフでついた傷じゃない。というより、ナイフは心臓まで達してないんですな」  ナイフは、ペーパーナイフだった。  あれじゃ刺さっただけでも奇跡だ。 「それで、肝心の歯形なんですがね。美咲ちゃんの歯形と一致しましたよ。どう思います?刑事さん」  揃ってしまった。  謎は揃ってしまった。  外に出されていない恵美の心臓に死んだ筈の美咲の歯形。 「さぁて…さっぱり分かりませんよ」  こうして、迷宮入りする事件は少なくない。  オレは解決できない事件を抱え、病院を出た。 ―終―
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