バー"宵の明星"

6/8

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 女性の方はと言うと、カウンターに突っ伏していた。肩が小刻みに震えている。  程なくして、マスターは男の前に瓶とグラスを置いた。  男は右手で瓶の中身をグラスに半分ほど注ぐと、ゆっくりと瓶を置いた。  グラスに入れられたそれは、まるで本物の琥珀のように怪しく煌いている。  男は、右手でグラスを押した。  琥珀色の液体が入るそれを、滑らせるように。  しかし、それは十センチほど進んだところで止まった。  その瞬間、音という音が消滅した。  まるで、偉大なる神が戯れに時を止めてしまったかのようだった。  だが、時が止まることなどない。  最初に動いたのは男だった。というか、男しか動かなかった。  男は無言で立ち上がり、琥珀色に染まったグラスを手にとって自分の席に戻ると、芋焼酎をグイッと煽った。音を立てずにそっとお猪口を置くと、男は意を決したように落としていた顔を上げた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加