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女性の方はと言うと、カウンターに突っ伏していた。肩が小刻みに震えている。
程なくして、マスターは男の前に瓶とグラスを置いた。
男は右手で瓶の中身をグラスに半分ほど注ぐと、ゆっくりと瓶を置いた。
グラスに入れられたそれは、まるで本物の琥珀のように怪しく煌いている。
男は、右手でグラスを押した。
琥珀色の液体が入るそれを、滑らせるように。
しかし、それは十センチほど進んだところで止まった。
その瞬間、音という音が消滅した。
まるで、偉大なる神が戯れに時を止めてしまったかのようだった。
だが、時が止まることなどない。
最初に動いたのは男だった。というか、男しか動かなかった。
男は無言で立ち上がり、琥珀色に染まったグラスを手にとって自分の席に戻ると、芋焼酎をグイッと煽った。音を立てずにそっとお猪口を置くと、男は意を決したように落としていた顔を上げた。
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