バー"宵の明星"

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 マスターは、ラスベガスどころか、世界中のどんなポーカープレイヤーが束になっても勝てないであろうポーカーフェイスを貫き通している。  女性は男から身体ごと顔をそむけ、カウンターの上で右手で強く拳を握っていた。笑い声を上げない為の、苦肉の策なのだろう。  俺はそんな店の雰囲気に耐え切れず、席を立った。日本酒はほとんどぶちまけてしまった。  すると、スタッフオンリーの扉の向こうからパタパタと女性店員が駆けてきた。 「お会計……です、よ、ね?」  必死に笑いを堪えているのがよくわかる表情だった。口の端が引きつっている。  代金を支払うと、女性店員はチョコレート色のドアをあけてくれた。カランコロンと、ベルが涼やかかつ鮮やかにその身体を揺らして音を鳴らす。  寒い冬の風で、ズボンに吹き掛けた日本酒が凍みた《しみた》。
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