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暗い夜道を街灯はおぼろげに照らす。
歩きなれない裏道にはいつもとは違った感覚を与えてくれる。
辺りは静寂。聞こえるのは自分の足音だけ。
役目を終えた建物は快く迎えてはくれない。つめたく悲しげに人に訴えかけていることも誰も知らないままだ。
ここは表ではないんだよ。
過ぎ去って行く廃墟にそんな哀れみを述べたところで偽善にもならない。
これは戯言。
何分歩いたのだろうか……。
長く続く街灯の明かりに引き寄せられて立ち止まる。
なぜ立ち止まったか分からない、確かな感触があったからだろう。
「雨…?」
ポツポツと一定の感覚で空から落ちてくる。
空を見上げた顔に滴り落ちた雨粒を指で拭う。
それは血のように鉄臭く赤い雨粒。
拭った指には赤い血痕がついている。
「ねぇ…綺麗でしょ…」
甘く囁くように艶やかな声が聞こえてくる。
この道に人がいる気配はなかった。廃材が投棄され人が好んで歩く所ではない。
それはさらに問いかける。
「ねぇ…聞こえてるでしょ…私の声が…」
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