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「ちょっと待って!桐谷さん!!」
僕の借りている部屋から階段をはさんで奥の一室。彼女はちょうどドアに手を触れるところだった。
今朝のニュースで見た映像は確かにこの室内と一致している。
僕がここで暮らす際に管理人さんに部屋を見せてもらっていた。何か嫌な雰囲気を感じたことを覚えている。
「ちょっとごめん!」
彼女の手をどけてドアを開けた。
部屋には赤い痕跡はなく、カーペットは真新しい。整理された家具が新しい入居者を待ちわびているようだった。
「どうかしたんですか?」
不安げにこちらの様子をうかがいながら桐谷さんはリビングへとついてきていた。
「え、ええと。なんか勘違いだったみたい。ごめんね桐谷さん勝手に上がり込んで」
頭を下げて玄関へと向かう。
「私は大丈夫ですよ。変な日ノ下(ひのした)さん」
桐谷さんはくすりと笑う。
「あはは、今日は朝からごめん。引っ越してきたばっかりなのに迷惑かけたよ。何か困ったら呼んで、じゃあまた」
脱ぎ捨てていた靴を履き、彼女に再び頭を下げドアを開けた。
「いえ、気にしないでください。困ったら日ノ下さんに助けてもらいますから」
にこりと笑いおじぎをした彼女を見てドアを閉めた。
「ふふふ」
顔を上げリビングへと足を進める。
「感がいいよね日ノ下くんは」
カーテンをめくり外を確認する。雨は一日中降り続ける予報だ。
「あなたは雨が好きなのかな…日ノ下歩くん…」
窓ガラスに指をあて下へと線をひく。
指先から赤い赤い血が下へと垂れ落ちる。
窓ガラスに滲む血痕は地をはう蛇のように…。
降り続く雨は惨劇の舞台に浄化をもたらす一時の癒やしになっていた。
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