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頭の中に光が走った。
何かが壊れる音がした。
とたん、今まで大切で大切で仕方がなかった人が
心の中で薄れていった。
「……え……?」
靄がかかって
不透明になって
…消えて消えて消えて。
思い出の端々が、引き千切られていく。
波にさらわれるように、やっと手にした大事なものが奪われていく。
引き止めようと必死で肩を抱いた。理由の解らない震えが、足元から全身を襲って、床にへたりと座り込む。
「やめて」
大切なの。
あの人はとてもとても大切で、だから。どうか。
波の音が近くなる。
潮の匂いが強くなる。
消えていく、なくなっていく、笑顔。…思い出。
全ての時間が奪われる。なくなるのは、あの日からのココロ。
「クェル…」
・・・・・・・
あぁ、また失ったんだ-------…………。
何もかも消えていく意識の中で、一瞬浮かんだその感情さえ
再び目覚めた少女の記憶に残らない。
戻る。戻っていく。
辿るは何も持たない己。
カラッポの身体。
「助けて……もう、解放して…」
わけもなくそう思うと、どこかで嘲笑うかのような微笑みが聞こえて、少女の意識は海に溶けた。
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