1人が本棚に入れています
本棚に追加
嵐だった。
向かおうとするその小島は、穏やかに光輝いているのに
自分たちを襲う雲は、重く大きくどす黒く、今にも巨大な稲妻が船を真っ二つに裂いてしまいそうだった。
「水を海に返せ---ぇぇっっ!!!! リア、ファム!お前らは帆をたため! クォーは下を手伝え!」
激しく前後左右、おまけに上下する船の上を9人の船乗り達が駆けまわる。
明るく深い橙色の髪を雨に濡らしながら、カーネリア(愛称リア)はひょいと縄ばしごに飛び乗った。
反対側の縄ばしごに手をかけるファントム(愛称ファム)に声を張り上げる。
「おい、ファム! どっちが先に帆をたためるか勝負しようぜ!」
「バカ言ってるヒマあったら仕事しろ。役立たず」
二人の少年の躯がしなやかに動き、梯子をかけ上がっていく。
ファントムより数秒早くそこへ辿り着いたカーネリアは、丸太一本のその場に立ち上がった。
限りなく不安定なのを、勝ち誇った笑みに代えて、胸を張る。
「へーん。おっせーの」
「おいバカ、落ちるぞ」
しかし聞こえたのは、緊張感のない明るい声だった。
「そんなヘマしねーつっーの!このぐらいの揺れに耐えらんねーなら、この船のクルーとは言えねぇぜ!」
…そう言い切ったその時だった。
下から突き上げるような大きい衝撃と全身を殴られたような強い圧力とが、同時にカーネリアを襲った。
「う、わっ!?」
平行感覚がなくなり、世界がくるりとまわる。
あ、ヤバい。
そう思った瞬間、雨に濡れていた身体は鈍い痛みと凍りつくような水の感触を伴い海に呑まれた。
荒れ狂う波の音が、海の叫びとなってカーネリアを包む。暗闇の中でもみくちゃにされながら、カーネリアは息苦しさを微かに感じた。
最初のコメントを投稿しよう!