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―――――――――― 向かいのホームでは、にこにこと目を細めた山下くんが手を振り、電車に乗り込んでいった。 私は同じ方面の城座くんと一緒に電車に乗り込むと、すぐにお礼を言った。 「城座くん、本当に今日はありがとう!」 「いや、いいけど。」 ふいとそっぽを向かれてしまった。 何考えてるかよくわからない人だけど、この人なんだかんだ優しいよね。 「好きなタイプも、聞いてくれてありがとう。」 「…。別に、ちょっと聞いてみただけだけど。」 「あのさ! 天然って、どうすればいいかな!?」 「あぁ、あれ。気にしてんの?」 「う、うん。 私、天然じゃないから…」 「あー…。 泉さん、天然というより、愚かだもんな。」 「お、愚か!?」 う… すごい言い方だけど、なんか間違ってない気はする。 「無理じゃねーの、天然を装うなんて。」 「そうだよね…」 想像通りの答えに、意気消沈してしまう。 私は一体どうすればいいのだろう。 沈む私を城座くんが薄茶の瞳でじっと見つめた。 「あのさ。 俺、人のことに口挟むの、本当は好きじゃないんだけど。 なんかおまえ見てると色々突っ込みたくなるってゆうかさ。」 「な、何でしょう? アドバイスくれるなら嬉しい!」 「1個だけ。 おまえ、あいつとの会話、先走りすぎ。 多分、失敗しないようにとか頭で色々考えてから話してるから、普通の答えより一歩飛び出ちゃってる感じがする。 もっと肩の力抜いてあいつとの会話楽しめば?」 はっとした。 確かに、今日の私はまさにそうだ。 まともに会話ができなくて、恋愛どこじゃない。 きっと、見ていた城座くんは心配してこうして言ってくれてるんだろう。 「わりぃ、余計なお世話だな」 「ううん!そんなことないよ! あの…むしろ、これからも、アドバイスしてくれないかな? こんなに協力させて、申し訳ないけど、私、恋愛系ダメだから…」 もし城座くんが力になってくれるなら。 これ以上心強いことはなかった。 はぁ、と小さなため息が聞こえ、 「…それでうまくいくとは限らないからな。」 と、しかめ面で答えてくれた。 この人は、やっぱりいい人だ。
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