30人が本棚に入れています
本棚に追加
太陽が仕事を頑張っている。
夏とはそんな季節である。
暑く照りつける太陽に、肌は焼かれる。
「……熱い」
少女こと、真由美は砂浜に降りると率直な感想を口から溢す。
「真由美さん、忘れ物ですよ」
連れの男こと、椎名はそう言うと麦わら帽子を真由美にフリスビーを投げるように放った。
「あぁっ」
しかし、それは浜風に流され明明後日の方向へ飛んでいってしまう。
行き場を見失った麦わら帽子は、風に舞いヒラヒラと宙を泳ぐ。
「ん?」
それはまるで吸い込まれるかのように、麦わら帽子は砂像の元へ飛んでいった。
「これは……」
麦わら帽子は砂像にフワリ、乗っかる様に着地した。
砂像を作っていたであろう青年は腕を組み、麦ワラ帽子が乗っかった砂像をまじまじと見る。
「案外絵になるかな?」
「天城ぃ」
砂像の近くに居た天城と呼ばれた青年。
呼び掛けられた声にも無反応で、その場から動こうとはせず砂像を見つめる。
「天城っ」
「んぉっ。な、なんだよ志穂」
ようやく、志穂と呼ばれた少女の声に反応した青年。天城は、振り向く。
「天城ぃ、さっさとこの帽子を取ってあの子に返しなさい」
志穂が指差す先には、砂像を呆然と見つめる真由美の姿があった。
「いや、でもこの麦わら帽子とのコントラスト。絵になると……」
言葉の途中だが、天城は喋るのを止めた。
拳を思いっきり振りかぶる志穂に対して、天城は身の危険を感じたのだ。
「これ、君の?」
天城は麦わら帽子に付いた砂を払いながら、真由美に尋ねる。
最初のコメントを投稿しよう!