祈り届かず

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 僕は、生まれる筈でなかった存在だった。生まれたばかりの僕が初めて見たものは、僕を優しく抱える大きな大きな、炎を纏った天使様だった。いまでは彼女が天使様で無いことには気が付いているけれど、それでもふわふわとした白い毛や、優しげな青い複眼、オレンジ色の三対の羽なんかはまさに天使様で、僕は生まれてすぐに美しい存在に出会った。  その後すぐに僕は髪をポニーテールにした女の子に抱き上げられて、あちこちを見つめられた。変な機械をいじっていた女の子は、すぐに彼女に飛び乗って大きな街へと降り立った。周りからは明るい音楽が聞こえてきて、外の世界がとても素晴らしく見えた。 「ジャッジさん」  僕を抱えた女の子が、大きな鉄の塊がたくさん走る場所で男性に声を掛けた。男性は女の子に笑いかける。 「やあ、トウコちゃん。また厳選してたのかい?」 「ええ。いまは夢特性のグラエナを。この子どうかしら?」  トウコ、というらしい女の子はジャッジさんとやらへ僕を手渡した。ジャッジさんは僕を優しく撫でてから、少しだけ言いにくそうにトウコちゃんへと目を向けた。 「相当優秀だね。一番良いのはHP、それから防御、特攻も中々だね、あとは素早さかな。最高の個体だよ」  トウコちゃんは舌打ちをして、僕を乱暴に掴んでボールの中へと詰め込んだ。 「ありがとうございました、ジャッジさん。また来ます」
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