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「いや、やめて……やめて! 怖い! やめてはなしてぇぇっ!」
少女は涙を流しながらサザンドラの尻尾を、その小さな手で剥がそうと暴れます。サザンドラの声を聞いてしまったのでしょう。サザンドラが少女から尻尾を離すと、少女はほっとしたようにまた泣きました。サザンドラは悲しくなり、ぽろぽろ涙を流しながら、その尻尾で少女の白い杖を取り、少女の手に触れさせました。少女はその慣れ親しんだ感触に、はっとしたかのように見えない筈のサザンドラを仰ぎ見ました。まだ涙のあとの残るその幼い顔立ちに、サザンドラは心を痛めます。
「あの子達から私を助けてくれたのね。……怖がってごめんなさい」
少女はそう言うと、杖を受け取ってゆっくりと道を歩き出しました。サザンドラはそんな少女の後ろをゆっくりゆっくりついていきました。怖がってごめんなさい、だなんて初めて言われたので、嬉しくなってしまったのです。少女が三歩進むとサザンドラは一歩進みます、少女はチラチラと後ろを気にしていましたが、サザンドラは気付いていません。少女を襲おうとした野生ポケモン達はサザンドラを見付けると恐れて動けなくなってしまいました。
町のすぐ近くまで来た時、少女はとうとう振り返りました。
「どうして私を追いかけて来るの? 私は何も持っていないわ。あなたにしてあげられることも無いわ。それともあなたは私を食べたいの?」
サザンドラは少女へすり寄っていきました。ニャルマーがトレーナーにするように、体を少女の体へ優しくすり付けます。それでようやく少女の強張っていた体から力が抜けました。
「ねえ、私、バトルはできないのだけれど、あなたは私の友達になってくれる? 私のポケモンになってくれる?」
少女の言葉に、サザンドラは喜んで「ギャオギャオ」と鳴きました。少女は腰に一つだけ付けていたモンスターボールをサザンドラへ向けます。サザンドラは自ら甘んじてボールの中へと入っていきました。
「これから宜しくね、ギャオ太」
少女はモンスターボールへ頬擦りして、もう一度歩き出しました。傍らには三つの顔を持つ大きな黒いドラゴンポケモンを伴って。
END
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