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少女が足を止めたのは、大きな公園の前。
歩道以外は全て緑の芝生に覆われ、木々や花々で溢れている。
優しい陽射しが降り注ぐそこは、自然がどんどん減りつつあるこの国で、人が悪足掻きとして造った場所。
けれどもそこには、失われゆく自然を少しでも長く感じていたいという人間の、身勝手な、でも確かな希望も含まれているのだろう。
歩道を逸れ、芝生に腰を下ろした少女は、貼り付いたような無表情を、少しばかり緩めた。
連日の快晴のおかげで、芝生は瑞々しくも乾いている。
だからこその行動――
少女は木陰に移動して、そのまま寝転んだ。
時刻は午後5時。
季節は初夏。
まだまだ陽は高く、暖かい木漏れ日が降り注ぐその場所で、
年相応なあどけない寝顔を晒し、うたた寝を始めた高校生の少女――
楠本 芹 (くすもと せり)15歳
は、
淡い緑色の光に包まれる。
眩しくはない柔らかな光が少女の全身を覆い隠し、一瞬、ひときわ強く発光した。
その光が徐々に薄まり、完全に消えた時、
少女の姿は忽然と消えていた。
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