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「えっ?あたしが?牟田(ムタ)くんがあたしのこと嫌いなんじゃないの?」
そう言い合うと、お互い目が点になってたみたいで、少ししてから噴き出してしてしまった。
「お互い、嫌われてると思ってたんだ」
なんて言いながら。そんな小さな誤解からずっと、話せなかったんだと気付くと可笑しかった。
それから、笑いがなくなると、虫の鳴き声が分かるくらい静かになって、ヒロムが「ちゃんとキスしてみる?」って言った。
「キス?」
「俺、したことないけど」
「あっ。あたしもだよ」
あたしの頭ひとつ分高いヒロムの顔に近付くように少し背伸びをして、ヒロムは腰を屈めてくれた。
秒数はきっと、一秒程。
その瞬間は二人のもの。
「おやすみ」なんて言って、ヒロムは夜の闇の中に消えて行ったんだ。
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