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今から10年前のこと……
日も暮れかかり夕陽が綺麗な日だった。
私は誰もいない公園で独りブランコを漕いでいた。
そこに突然
「アイコ!アイコ!」
私の名前を呼ぶ声。母が迎えに来たのかも。
淡い期待を抱き声がする方向を向いた。そこにいたのは母ではなく、必死にアイコちゃんを探している、母親だった。
私のことではなかった……。
「愛子のことを迎えに来る人なんていないよね……」
私は物心付いたときから施設にいた。うっすらと母親の記憶があるが幸せな記憶が何一つない。
私に幸せな思い出があったなら、それは全て黒で塗り潰されているだろう。
思い出せるのは全て辛く私にあたる母の姿だけだった。いっそ黒く塗り潰すのであれば、綺麗にすべてを塗り潰してほしかった。
ぽろりぽろりと大粒の涙が頬に伝うのがわかった。別に泣きたくなんてなかった。
だけど涙は重力に逆らわず伝っていく。
その涙を乾かしたくてブランコに立ち乗りをし、おもいっきり漕ぎだした。
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