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どのくらい叩き続けたのか、彩花の手は
真っ赤になってしまっていた。
その手の痛みを取ろうと、両手を
擦り合わせた時、
「…お姉…ちゃん…。」
背後で詩花の震えた声がした。
途端に、トンと軽く背中が触れる。
何事かと思い、振り返ると、
「ひっ!」
…長い黒髪の女がいた。
長すぎる髪で目は見えず、口元だけが
ぼんやりと見えており、真っ白な肌は
白すぎて青く見えるほど。
艶やかそうな桜をあしらった着物は
まるで色褪せた様に色が消えている。
…どこか、人間ではない印象の、女。
二人はそう思い、身を寄せ合い震える。
「…。」
しかし女は何もして来ず、黙ったまま
右手で屋敷の奥を指差す。
「「…。」」
その指先に誘われて、二人は視線を移す。
…この先に、行けと言うの?
問うべきかと視線を戻したが、
「「…あれ?」」
…その女の姿は、もうどこにもなかった。
ただ、女がいた場所に、火の点された提灯が
ぽつりとあるだけだった。
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