彫刻家~ 処女作にかえれ~

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「彫刻家」 青緑色の純粋な陶器の花瓶がマホガニーの夢から落ちる その衝撃の下に剥き出しの床がある 落ちると壊れるの混ざり合った目覚めのふちで 耳障りな音をたて粉々になったその青緑色の欠片たちが乾いた音をたて独楽のように跳ねながら飛び散りふるえまたぶつかりあう 心地よい音楽は何度も何度も永遠の振り子のなかで繰り返される 彫刻家の彫る女はそれににてひどく古典的だ、 つねに 湾曲な美しい女の体は思春期の頃に尖りすぎたその心を何度も何度も激しくバロック様式の円柱にぶつけた果てのもの その痣のように上品な美しい女の微笑が服を脱ぐ様を彫刻家はヌードといった それほどまでに彫刻家の視線は古典的だ 物語のように美しい女 その美しさのなかの瑕疵こそ彫刻家がいちばん望むもの 割れて粉々になったものが永遠に割れつづけようとする様を味わいつくしたいのだ その存在が青ざめ粟立つ最初のきっかけから味わいつくすためにも 彫刻家は時をとめる 時をとめられたものはデスマスクのように色あせ意味を失っていく 意味を失いながらその内側から壊れていくのは女だ 彫刻家の視線の先で、その手のなかで 彫刻家はその女の内側にたったひとつの真実を刻む 黒曜石がトルコ石が練り込んだ土が女が ふたたび色をもどし、つやをもどし意味を持ち微笑してはじめて彫刻家の仕事は終わるのだから 女の像はその完璧な様から驚くほど長い時間をかけて生きているかのように傷つき欠けていくだろう 女が死に、彫刻家が死んでも 美しすぎるほど、完璧すぎるほど 不均衡になろうとするミロのヴィーナスのように 彫刻家たちはどんな時代にあっても古典的だ 今も2000年後に完成する女を彫り続けては 処女作に帰っていく 作 夏休み
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