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夏が終わる頃。結婚10周年を迎えた二人は初めて二人で行ったあの場所にいた。
「変わらないね。やっぱり綺麗」
二人は手を繋ぎ、目の前に広がる景色に見入った。
「そうだね、変わらないな。10年経っても千華さんは変わらず綺麗だな」
「違うってば。変わらず綺麗なのはこの景色。でもありがとう。お世辞でも嬉しい」
「お世辞な訳ないだろ」
二人は微笑み合いしばらくその場所で寄り添っていた。
翌年。二人はその景色が望める場所に家を購入した。
引っ越した翌日。荷物整理の際、数冊のアルバムを見つけた千華はその中の一冊を手にした。
アルバムを開くと1枚の写真が落ち、写真を拾いひっくり返した千華の手が止まった。
「ねえ、これって……」
「ん?あっ……」
写真を見た大滝は明らかに動揺した様子だった。
「どこにあった?」
「これから落ちてきたの。これって……」
「……俺」
千華は写真と大滝を交互に見比べた後、写真で視線を止めた。
「俺の消したい過去。ちょっと…ハメをはずしてた時の……」
写真の中の人。
それは喧嘩をして家を飛び出したあの日、千華を慰めてくれたあの男性と瓜二つだった。
聞き覚えのある声色に頭を優しく撫でる手つき。『君が好きになりそうだ』と言った時の眼差し……。
あの時のハンカチはいつの間にかどこかへいってしまったが、もしかしたら過去からやって来た夫が落ち込むあたしを慰めてくれたのかも……。
そんな現実離れした考えに可笑しくなりクスクスと一人で笑う。
「なに?」
「ううん。もしかしてナンパとかしてたんじゃないかなぁって」
「してないよ。外見だけで中身は……」
まだ荷物が片付いていない部屋で、二人は肩を並べアルバムを開き笑いあった。
【終】
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