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自分の娘はたまらなく可愛らしいと思っている。
身内の欲目があるのは否めないが、しかしそれを差し引いても、天上の女神が裸足で逃げ出すほどに娘は愛くるしい。
そんな娘――澪莉の為ならばなんだって出来る。
慣れない料理も、妻が亡くなってからは特訓を重ねたし、欲しいものは、甘やかしにならない程度には与えてやろうと思っている。
現に今だって、プレゼントとともにサンタの召喚をねだった澪莉の為に、百円ショップで購入したチープな赤い衣装を身に纏い、娘と義弟がいるであろうリビングのドアの前に仁王立ちしているのだ。
しかしながら、どうなっているのかわからないものはわからないのである。
ドアには濃い青と白で雪の夜を表現したのだろう、クリスマス仕様のメッセージカードがぺたりと貼りつけてあった。
これは先だって義弟に任務とともに渡したものだ。それは間違いない。
義弟には、澪莉の欲しいものをさりげなく探らせ、サンタへの手紙と称して澪莉に何かしら書かせるようにと渡したのだ。
義弟は任務を滞りなく遂行し、澪莉が欲しがったおもちゃのことを俺に伝えた。
カードに何を書くか澪莉が一生懸命悩んでいることも同時に話していた。
なのに。
カードには明らかに澪莉とは思えない流麗な字が走り、何故だろう、挑戦的な気のようなものを感じる。
『サンタさん、毎年ご苦労様です。
ドアの鍵は開いていますのでご自由にどうぞ』
……なんだこれは。
透莉くんは聡明な青年だが、今回は何を考えているのか。
彼の頭脳を持ってすれば、俺がサンタのコスプレで現れることも予測できたということか。すこし悔しい。澪莉だけではなく彼も驚かせてやりたかったのに。侮れぬ義弟である。
ええいままよ、とドアを開けると、パンパンと弾ける音と火薬の匂いに混じって暖かな夕食の香りがした。
腰にまとわりつく柔らかい体や、愉快そうにクラッカーを握る青年、手作りらしいケーキといつもより豪華なディナーに、俺は間抜けによろめいたのだった。
「おかえりサンタさん!!メリークリスマスだよ!!」
(五秒後に義兄は泣き出す)
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