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「…………でも、そこが………」
微かに彼女の口から漏れた言葉。
あまりにも小さすぎて明瞭に聞こえなかった。
「なんか言ったか?今」
「……ううん、なんでも無いよ」
「そうか」
思わず口をついて出てきた言葉なのか、俺に聞かれたくない言葉なのか、ぎこちない笑みを浮かべ、ごまかす。
それに気付かないふりをして、微笑み返すと、落胆と安堵が入り混じったような、なんとも形容しがたい表情を浮かべる彼女。
(本当は、分かってるんだけどな…)
彼女が俺に恋愛感情を抱いているのは、紛れも無い事実だろう。
クリスマスに二人きりで遊びに行こうと誘われた時にはもう、予想出来ていた。
何かを言いたげな様子で佇む彼女。
「さて、もうじき十時になるが、どうする?」
「あ、後一つだけ、行きたい所があるんだけど、駄目…かな?」
「解った、後一ヶ所だけな」
(仕方のない奴…)
助け舟を出すと、すぐさま目を輝かせる彼女に苦笑が漏れる。
何処となく気合いを入れた様子で、彼女は駆け足で俺を先導する。
彼女が、俺の僅か先で歩道から車道に出ようとした。
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