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「紗弥!」
猛スピードで走る車が、彼女目掛けて走ってくる。
ヘッドライトの閃光に晒されている筈の彼女を無視して、スピードを緩める事なく車が走ってくる。
彼女が車に撥ねられるという最悪のヴィジョンが脳内に映る。
パニックで体が硬直しているのか、身動きをしない彼女の手を掴み、彼女の手を引く力を利用して自分と彼女の位置を入れ換える。
驚愕の表情を浮かべる彼女。
そのまま彼女をトンっと歩道の奥へ突き飛ばした直後。
……ドンッ…
全身に衝撃が走り、俺は鈍い音とともに吹き飛ぶ。
程なくして再び全身に衝撃が走り、地面に落下したことを知る。
「紅音君!」
遠くで彼女の泣きそうな声が聞こえる。
何度も何度も叫ぶ彼女の声が聞こえる。
ふと、隣に気配を感じて、いつの間にか閉じられていた目を開ける。
「う………紗……弥…」
泣きそうな顔をしながら、彼女は俺の顔を覗き込む。
「怪我………無いか?」
安心させるように微笑むと、彼女は怒鳴る。
「何言ってるの!紅音君の方が…」
「大……丈……夫……。少し……寝たら……治る…」
治る筈が無い。
呼吸がし難く、腰から下の感覚が無い。
即死していないのが奇跡的だろう。
彼女もわかっているのだろう、目から涙がこぼれている。
「泣くな……紗弥…」
「だって……紅音……君…」
「お前が泣いてたら……騒がしくて……寝れない……だろ…」
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