最弱の弓兵と最強の吸血鬼

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 その幻獣は彼女を捉えたあとは次第に姿を消していったが、元になっていた黒い矢はそのまま勢いを殺さず次第に遠くへ消えていった。 「ふう。さてと、積もる話しもあるけど、とりあえず終わったことだし帰りましょうか? てんてん」  一撃を食らい、氷漬けになった吸血鬼は落ちた衝撃で砕け散り完全に沈黙するのを確認したミリアさんは長棒を背中に収めると、すっかり元の田舎臭い雰囲気に戻った弓兵に振り向く。 「うん。久しぶりミリア。……そうしたいところだけどこの道、大分めちゃくちゃにしちゃったからね……直してから行くよ」  先ほどのクレーターもそうですが、掘られた芝や倒れた一本木、小石や砂によって誰もが安全に通れるはずの道は少なくとも、次に来た馬車はこれによって困惑するであろうと思われるくらいには荒らしていた。 「真面目ね~。私も手伝うからさっさと終わらせましょ」  そんな彼女の気づかいに、弓兵は優しい笑顔を向けながら、 「いや大丈夫。それよりミリアは……ラテンを連れてってあげて欲しい。マゾなこいつでも流石に腹に大穴は不味かったみたい……」  そう言い、目線で誘導した先にはどう見ても死体にしか見えない人影が視点の定まらない笑顔のまま小声で「良い……良い……良い……」と呟いていた。  血は止まっている様子ではあったが、そんな異質な光景に彼女も流石に苦笑い。 「……まぁあれでも結構平気だとは思うけど……そうね。先にラテンは連れて帰っておくわ」  そう言い、自分よりだいぶ大きい体の彼をお姫様抱っこすると、 「送ったら私もすぐに戻るから、それまでお願いね!」  そう言い、地面を蹴ると何十メートル先まで跳ぶように村の居る方向まで行く。  そんな彼女の姿が見えなくなるまで見届けると、弓兵は腕や脚、体や頭が完全に別々になってしまっている氷漬けの吸血鬼に真っ直ぐに向かう。  彼はその哀れな姿の吸血鬼を見ながら暫く考えると、苦悶の表情を浮かべる頭のパーツの前まで移動し、 「『ファイア』」  そう言い、小規模な火の魔法を繰り出す。次第に氷は溶けていきそれに伴い彼女の表情も穏やかなものになっていく。  そして器用に彼女の頭だけが焦げないで綺麗に残る。  そんな彼女の頭を両手で拾い上げ、自分の顔の目の前まで持っていき、 「吸血鬼。生きてるんだろ? 起きろ」  目の閉じた、人形の様な彼女に話しかける。
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