166人が本棚に入れています
本棚に追加
「うん」
「……おい! 君はバカか!? バカなのか!? き~い~て~る~の~!?」
無視を貫き通していたが、耳元で大きな声を出され続けるのは無視出来なかったらしく、少し首筋から距離を離す。だが、直ぐに首筋にその頭を戻す。
「生きろ」
「ふざけるな!」
「生きて」
「バカ!」
「生きよう」
「アホ!」
「生きて欲しい」
「クソ!」
「生きてください」
「バカでアホでクソな変態奴隷!」
「生きてくださいお願いします」
「……おい」
「生きてくださいお願いします何でもしますから」
互いに意地になって来たのか一歩も引かないが、吸血鬼の方は折れたらしく、声のトーンを落とし、真剣な面持ちに変わる。
その表情はもしかしたら一番のカリスマ性を持ったものかも知れない。
「立場が分かっていなかった……死にゆく惨めな敗者にせめて教えて欲しい。ボクに命を預ける理由」
「……!」
「呪いをもってしても、答えてはくれないか……なら方法は1つ」
なけなしの魔力を使い、答えを引き出そうとするも、それに反発し口をきつく縛り、息を止めてまで黙り込む弓兵。
「……名を答えよ」
「て……ん……ば……!」
素直に聞かれたことへの意外性、これまでで一番の呪いの強制力……何より彼女のカリスマ性による威圧性。これらが重なり、弓兵、いや「テンバ」は自らの名を答えさせられる。
それを聞いた彼女は八重歯を覗かせる。
「そう……ボクの名はシャルテット。シャルテット・ブリリアントだ」
そして、彼女は彼の首に向かい噛みついた。
その吸い付き方は極限まで腹の減った人が食事にありつく姿とそう変わりなく、噛みついた所を食いちぎりそうなくらい、何度も何度も愛おしそうに吸い付いていく。
噛みつかれている側は肉を抉られ、生命のエネルギーである魔力を取られ、人も魔人も失えば死に至る血を取られ続ける。
想像以上の苦しみと痛みと消えてしまいそうな怖さ。それらが混ざりそれ以外の感情も渦巻く感情がテンバを襲う。
表情はもはや表情ではなく、体中から血が魔力が溢れだし、血涙を流す眼は彼の能力の発動条件を無理やり引き出す。
そんな状態がどれくらい続いたかは2人とも分からない、彼女は一瞬だろう、彼は一生だろう。
その時を知るのは……一度戻って来たツインテールの彼女が知ることになる。
最初のコメントを投稿しよう!