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薄光の月の下、崩れた瓦礫の周りに立つ魔王と勇者。そして、その様子を後ろから見守る3人の弓兵、戦士、魔法使い。
額からは血を流し、腕は曲がり、呼吸もままならない3人の致命傷一歩手前の怪我に対し、魔王と勇者の2人は外傷に目立った傷は無く、互いの武器を相手に向けたまま佇む。
一時が何十時間にも感じるこの張りつめた空気を打破するため、3人の一番前に立つ弓兵は、折れた利き腕とは反対側の腕で、青い矢を生成すると、多量の出血によりおぼつかない足取りを険しい表情になりながら気合で立ち上がると、全力で踏み込む。
気持ちだけで投げたその矢は誰にも当たらず2人の間に滑るように到達し、それを見届けた弓兵は力なくそのまま倒れる。
その様子を見ていた魔王は、半分割れた漆黒の仮面から覗かせる美しい顔の口角を上げる。
「さて、お仲間3人は既に動けないみたいだけど、貴方1人でどうするつもりかしら?」
その言葉に、鼻で笑って見せた勇者は、勇者の聖剣を鞘に納めると、魔王に背を向けて仲間の元に向かう。
何故か魔王も展開していた術式や構えていた杖を解きその様子を先ほどとは打って変わった穏やかな目で見守っている。
仰向けに倒れて意識もあるか分からない弓兵の前まで行くと、片膝を付き、懐から1人1つずつ持っていた、どんな傷も一瞬で治る特製の秘薬を目の前に置く。
「……ごめんな。必ず戻るからこれを使って先に帰っててくれ……じゃあな」
静かに穏やかな喋りをすると、僅かな意識のある弓兵が声にならない声を後にしながら魔王の元に戻っていく。
「惚れた、結婚しよう」
歩きながら何気なく言ったその言葉に、倒れた3人の体が僅かに反応する。
「良いでしょう……では行きましょうかユウ」
「あぁ……行くぞマオ」
まるで元来の旧友の様に慣れた様子の会話を聞いたのを最後に光に包まれた魔王と勇者は3人の前から姿を消してしまった。
……残された3人の心中は強く握りしめられた手が物語っていた。
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