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「君にはもっと無いのかい? こんな束縛振り払ってやる! とか、ふざけんな! 殺してやる! とか、少なくとも前に襲った奴らはそう言ったんだが」
「別に……自分の<異名>聞けば分かると思うけど」
「へぇ、異名持ちか。じゃあそこそこ強いんじゃないか」
「異名」はそこそこの知名度、実力がある人物に与えられる名誉あるもの。どっからどう見ても強そうには見えない、下手すると戦闘すら経験したことが無いと思っていた吸血鬼はその言葉に興味を示す。
「是非とも聞かせて欲しいな。なんて言うんだい? 一応ボクが満足した血と魔力を持っている奴隷なんだ、ちょっと期待しているぞ?」
それを聞き、その「異名持ち」の青年は途端にばつの悪そうな表情と仕草になる。
「……どうしたんだい? 何か言いづらいことなのか?」
呪い効果は使ってないのか敢えて、言うのを待たせている状態であった吸血鬼だが気は長い方ではないらしく尻尾を不機嫌そうに動かす。
その様子を感じ取ってか呪いの効果も相まり、申し訳なさそうに苦笑いしながら、
「<最弱の弓兵>」
「……はぁ!?」
威圧的な人は苦手らしく言った後も視線が動き、苦笑いしながら何か考えている様子の最弱の弓兵さん。
「君は実に……不愉快だ」
途端に目が赤く光り、その羽を大きく広げると、鋭く尖った爪を最弱の弓兵の目前に向ける。
「仮にもボクの奴隷が最弱の名を持つのはちょっと生理的に無理。やっぱり死んでもらうことにするよ」
しかし、意外にもその最弱の弓兵はどこか落ち着いている……と言うより心此処に在らずと言った感じであり人の話を聞いているのか疑問に感じるところである。
もっと慌てふためく姿を期待していた吸血鬼はその自然体の彼を気に入らないらしく、歯を噛み、眉間に皺を寄せて怒りを露わにする。
「死ね。弱かった自分を恨め」
しかし、その手は彼を貫くには至らなかった。
それは、唐突に現れた水色のツインテールを靡かせるチャイナドレス女性に阻まれたからである。
「久しぶりに会ったと思ったら……お礼は後でしてもらうわよ? てんてん」
「み、ミリア?」
強力な棒術で吸血鬼を横に吹っ飛ばす。先ほど吸血された際に出来たクレーターを除いては草原のみが広がるこの場所では彼女を止める障害が無く、もうすでに飛ばされた際の土煙以外に見えるもの無い。
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