最弱の弓兵と最強の吸血鬼

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「いらいらが募って来たみたいだけど? 最強の吸血鬼さん」  先ほどの長棒を地面に突き、右足に重心を寄せ、腰に手を当てて言った挑発の一言。  その一言は自信の塊みたいな彼女には十分に効果があったらしく赤黒いオーラが目視で確認できるほどまで増幅していく。  その一方で虫や最弱やら言われた、弓兵はまるで怒る様子は無い……と言うより何か考えているのかも知れないが、悪魔の羽を羽ばたかせながらゆっくりと上昇していく憤怒の吸血鬼をじっくり見据えている。 「まぁいいさ! 全力にはほぼ遠いがお前たち2人を倒すくらいどうってことないさ!」  赤い涙を流し、宝石が埋めこまれているような輝きを放つ眼。  感情が高ぶるに連れて魔族の片鱗が露わになる姿は恐怖と共に、確かに強力な一撃を放つであろうと感じることが出来る。 「君たちは実にバカだな! ボクを本気にさせた代償! その死を持って償うがいい!」  彼女が両手を前に出し、その間の空間にその目と同じ赤さと輝きを持った1本の螺旋状の長物が出来る。  長物の周りを更に螺旋状に包んでいき、両端に螺旋の先端が出来上がる。  そして、それは物凄い高音と共に高速で回転する。  その音、物の禍々しさ、それを持つ者の圧倒的な魔力と威圧感。どれをとっても食らえ不味い代物であるのは予想が出来た。 「『everlasting,circulate,be ready to die』!」  流暢な英語……「この世界」では「魔語」でしたっけ、それを最後に言い放つと、その不気味な輝きの螺旋を投げつける。  距離を進むごとに回転数は増し、左右の螺旋は長さを増していき、長棒を持つ女性に向かい迫る。 「さて、そろそろ来るかしら……雷が」  高音を放つ螺旋の槍とは正反対の重低音の衝撃。  彼女に向かうはずだった螺旋の槍は、その目の前に居る茶黄色の逆立った髪の青年に刺さることになる。 「……やっぱりバカだな。これを食らえば死ぬまで回り続ける……どちらにしろボクの知らない君が死ぬだけ」  十分の致死性を持つ螺旋槍。その槍を大柄で引き締まった筋肉質の青年はその体躯に抱え込んでいる。  多量の血を吐き、回転する槍が体を削り痙攣する様子は傍から見て確実な死を連想させるには十分すぎる光景。  次第に回転は止まり、高音の音が消えていくと同時に螺旋の槍は消える。
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