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その青年は両足で立ってはいるものの、腹には螺旋の槍の爪痕として大きな穴が完成していた……彼の死は確実なものに見えた。しかし、
「き、き、き、き、き……」
「なんだ、まだ死なないのか? どうせ死ぬ命、最後の言葉くらい聞いてあげるよ」
宝石のような輝きは無くなったが赤い眼は顕在ではあり、既に魔族が前面に押し出された彼女の見た目は、人形の様に無機質な顔を見せるだけとなっていた。
雷の様に一瞬の輝きを見せた彼は、振り絞りながらも自らの心の内をまるで百獣の王の咆哮の様に叫ぶ為、空を仰ぎ、そして、
「きもちぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!」
「……は?」
「でしょうね」
「だろうな」
叫んだ咆哮はこの世の理の不尽さでは無く、彼の異常な性癖だった。
「な、なんで!? 確実に! 確実に死に至らしめる威力はあったはず……!」
無機質な人形の表情は一変。まるで反抗しない飼い犬に噛まれた様な心境と表情に変わり、幼く見える彼女にぴったりの驚きぶりである。
「ミリア、準備出来たから適当にあいつを下に降ろして欲しい」
「分かったわ! という訳でラテンくん! その空いたお腹失礼するわ、ね!」
「うぅぅんんん!!!! わぁがぁったぁあぁぁぁぁぁ!!!!!!」
そう言い、持っていた長棒をさっきと同じように捻りを加えると今度は掌底の威力を持って長棒を投げる、と言うより押し込んで発射する。ラテンくんの大穴から。
「え!? ちょ!? あぁ!」
まさかの攻撃方法に動揺していたのもあり、その大きく広げた羽に激突し破け、バランスを失った彼女は下に向かって落ちていく。
そんな彼女を狙っているのは先ほどより長い弓で青一色。たすき掛けされた筒から取り出された黒い矢に氷属性を込めたものをじっくり引いていた最弱の弓兵。
彼の眼は見開かれており、瞬きすらしない鋭い眼光と集中力。
そして何よりその両目が赤と青でそれぞれ違うことが彼の一撃に掛ける重さを感じさせる。
「『流星改』」
そう呟いて放たれた彼の矢は目標に近づくに連れて美しい氷の輝きを放ちながら、まるで氷の幻獣が徐々に現れる。そんな様子であった。
「う、うそ! さっきまで虫の様な……いやぁぁぁぁぁ!!」
その幻獣の一閃の直撃を受ける吸血鬼。
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