まなみ

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 ―310号室― 「まなみさん、気分はいかがですか?」担当医師が回診に来た。 「先生? わたしの身体……診ましたよね? 何か気付きましたか?」 「ええ。あなたの身体はアザだらけでした。階段から落ちたアザではないアザまで見つかりました。まるで暴行を受けたような痕跡です。暫くここで休まれた方がよろしいかと思いますよ」 「先生……。あの……。写真……、写真を撮ってもらえないでしょうか? 身体中のアザの写真を……。それから診断書も書いて欲しいんです!」 「……やはり……でしたか…」 「先生?」 「良かったら、そのアザの原因を話してくれませんか? 力になりますよ」 「先生……。」  まなみはガマンしていた思いの涙が溢れ出した。そして、ゆっくりとすべて医師に話した。 「よくガマンしてこられましたね。辛かったでしょう……。わたしに話した事で、少しは気分が楽になったのではないですか?」  強気なまなみではあったが、涙が止まらなかった。 「彼の優しい部分はわかりました。しかしですね、それだけ暴行を繰り返されたら、あなたの身体は壊れてしまいます。暴力は愛情の裏返しではなく犯罪です。あなたはまだお若い。これからもっと幸せになっていただきたいのです」  まなみは言葉が出ない。 「誰か信用出来る人が身近にいますか?」 「信用出来る人? ……ですか……。わたし……頼る人が夫だけでしたから……」  まなみの母親は彼女が高校生の時に出て行ったきりだ。父親は産まれた時からいなかったし、誰なのかも知らない。  親戚なんか信用出来ない。 「誰も…………」 「そうですか……。それは困りましたね。入院している間にちょっと思い当たる方を探してみてください。どなたもいないようでしたら、またその時考えましょう」 「わ、わかりました。ありがとうございます」 「信用出来る人か……」  まなみは孤独感に苛まれていた。  
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