24人が本棚に入れています
本棚に追加
―310号室―
「まなみさん、気分はいかがですか?」担当医師が回診に来た。
「先生? わたしの身体……診ましたよね? 何か気付きましたか?」
「ええ。あなたの身体はアザだらけでした。階段から落ちたアザではないアザまで見つかりました。まるで暴行を受けたような痕跡です。暫くここで休まれた方がよろしいかと思いますよ」
「先生……。あの……。写真……、写真を撮ってもらえないでしょうか? 身体中のアザの写真を……。それから診断書も書いて欲しいんです!」
「……やはり……でしたか…」
「先生?」
「良かったら、そのアザの原因を話してくれませんか? 力になりますよ」
「先生……。」
まなみはガマンしていた思いの涙が溢れ出した。そして、ゆっくりとすべて医師に話した。
「よくガマンしてこられましたね。辛かったでしょう……。わたしに話した事で、少しは気分が楽になったのではないですか?」
強気なまなみではあったが、涙が止まらなかった。
「彼の優しい部分はわかりました。しかしですね、それだけ暴行を繰り返されたら、あなたの身体は壊れてしまいます。暴力は愛情の裏返しではなく犯罪です。あなたはまだお若い。これからもっと幸せになっていただきたいのです」
まなみは言葉が出ない。
「誰か信用出来る人が身近にいますか?」
「信用出来る人? ……ですか……。わたし……頼る人が夫だけでしたから……」
まなみの母親は彼女が高校生の時に出て行ったきりだ。父親は産まれた時からいなかったし、誰なのかも知らない。
親戚なんか信用出来ない。
「誰も…………」
「そうですか……。それは困りましたね。入院している間にちょっと思い当たる方を探してみてください。どなたもいないようでしたら、またその時考えましょう」
「わ、わかりました。ありがとうございます」
「信用出来る人か……」
まなみは孤独感に苛まれていた。
最初のコメントを投稿しよう!