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次の日の11時30分。
勝手口のドアを叩く音がした。彼女にしてはちょっと早いな? 誰だろ?
「どなたですか?」
「昨日のあたしでーす。今日も食べに来ましたよー、オムライスゥー」
カナメはドアを開けると同時に言った。
「ど、どーして今日もオムライスだと思うんですか!?」
「あれっ、違うの?」
「ち、違わないけど……」
「今のカナメの自信作なんでしょ?」
カナメは見透かされてるようで恥ずかしかったが、その通りだから仕方ない。
「今日はいつもより早いんですね?」
「あら? そうだった? 気にしてなかったわ。いつもよりお腹空くのが早かったのかもねー」
彼女は早く作ってと目で急かす。カナメは嬉しくなって、今日も精一杯作った。
彼女は今日も美味しいよー、と言って食べてくれた。彼女の笑顔はたまらなくかわいい。カナメはつい見つめてしまっていた。
彼女に「なに?」って言われて我に返る。
「あの……、あなたの名前、教えてもらえませんか? 僕は鳴瀬カナメっていいます。鳴門の鳴に瀬戸内の瀬。カナメはカタカナでカナメ。ってゆうか、さっきからカナメって呼び捨てされてますけどね」
「あれ、そーだった? あたしね、名前ふたつあるの。俗の名前とほんとの名前。どっちがいい?」
「もちろん、ほんとの名前…………えっ! 俗って……、あなたは有名人なんですか!?」
「だったら?」
「あ……、すみません……。だとしても、僕は失礼ながら、その……、存じ上げておりませんので、ほんとのお名前で十分かと……」
彼女は、十分か~、カナメは正直だわ~、とゲラゲラ笑った。
「あたしは芝咲まなみ、芝生の芝に花が咲くの咲。まなみはひらがな。まなみでいいよ。あ、年上に呼び捨てはないわね~」
「まなみ……か」
「へ……、早速……、まぁ、いっかぁ……」
まなみは恥ずかしそうに笑うと、もう帰らなきゃ、と言って店を出て行った。
「また来てくださいね」
「……。チャンスがあれば」
バタン…………。
まなみは久し振りに笑った気がした。まだ自分はちゃんと笑える。以前の自分を取り戻したい。 そう思いながら奏を後にした。
それから、数週間、まなみは店に姿を現していない。カナメは気にはなるもののどうする事も出来ずにいた。
彼女の情報が少なすぎる。こんな事なら俗の名前を聞いときゃ良かったと後悔していた。
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