9人が本棚に入れています
本棚に追加
隣に居る彼を見ると、泣いていた。
だけどワタシは、ソレの涙を冷めた目で見ていた。
彼は、自分のために泣いていた。
自分のこれまでの行い、考えの浅はかさ、親がどれだけ自分に期待してくれているか。
ワタシの為の涙はない。
ワタシの中に居る命への涙はない。
途端に、どうでもよくなって笑えてきた。
そこで、彼の父親から出た発言にも、笑えてきた。
「アンタの名前も、家のことも、なんも知らないし」
よく小説やらで読んだ覚えのある、有りがちな常套句だなと思った。
鼻で笑いそうになって、抑えた。
あくまでしおらしく、はい、とだけ答え続けて、最期には「それで、どうするんだ?」と聞かれたときには、ワタシは静かに笑っていた。
壊れた空っぽな笑顔だった。
ワタシの顔を見て、彼の両親は何を思っただろう。
彼の両親の目を真っ直ぐ見て、笑って「卸します」と言ったワタシの目を見て、一瞬、彼の両親は、確かに、ワタシに怯えた様な顔をした。
すぐに笑顔に戻っていたけれど。
そのあとすぐに、追い討ちをかけるように彼のお婆様と話をするよう言われて、ワタシは彼のお婆様にも同じように話した。卸しますとも、すぐに伝えた。
帰宅して、ワタシは虚無感に包まれた。
最初のコメントを投稿しよう!